クイズ王の部屋

「その道では有名」を知らなくてもしょうがない。

「ギターやってる人にとっては常識」
「○○○で働いている親にこの問題を見せたら即答だった」
「大学1年でこの科目を受講したら必ず最初に習うことだ」
「地元の人でこの事を知らない人はまずいない」
「○○○の世界では、今では「××」より「●●」と言う方が圧倒的に多い」

などなど、それに関わっている人なら誰でも知っているという事柄はどの世界にも必ずあるが、クイズプレーヤー(以下、「クイズ屋」)がそれらを知らないということは珍しくない。

クイズ界のことをよく知らない人の多くは、クイズ屋は様々な方面の基本事項をだいたい知っているものだと思っているかもしれないが、実情は少し違う。
クイズによく出ることというのは、クイズとして問いやすい、すなわち、「問題文」化しやすい事柄なのだ。だから、しばしばその分野ではどうでもいいような重要でない知識が問われたりもする。
例えば、ノーベル賞クラスの超一流の科学者が、長文難問クイズ界で出題されている科学の難問をホイホイ答えられるかといったら、そうではないはずだ。科学史家でも同様だろう。科学の専門家にそれらのクイズを見せたら、「命名者」や「賞」など特定の切り口が多いことに違和感を感じるに違いない。

クイズ屋と博学な人とは、似て非なるものだ。
クイズに強くなりたければクイズ用の知識を身につけなければならない。一般の雑学が豊富な人がクイズに勝てる時代はとうに過ぎている。

クイズ屋がひたすら「難問クイズ」のレベルアップに勤しんでも、そのうちの一分野の知識が本当の意味で増えることはない。クイズに特化した知識が増えるだけだ。

クイズ界にも当然のことながら、そのことを問題視する人がいて、「その道では有名な事柄」をもっと出題するべきではないかと言ったりする。
不本意ながら妥協して問題を作成した場合などに、「本当は○○○の方がメジャーなんだけど、クイズ的に考えて、こっちの方を出しました」 などと断り書きをする人もいる。

その道の常識を重んじるという姿勢は立派だ。
しかし、一口に「その道」と言っても、「道」はどう数えていいかも分からないくらいにたくさんあり、それらの基本をすべておさえるのは事実上不可能だ。

「超メジャーなのに意外に正解者が少ない」とか言われても、そんなの仕方ない。クイズ屋は他にもやることがいっぱいある。一つの分野にかかずらってばかりはいられないのだ。
だから、クイズ屋なのに、そこらへんを歩いている普通の人が知っていることを知らないということがあったからって、べつに恥じることはない。
森羅万象あらゆる分野の常識をすべて知っているというのはクイズ屋の理想だが、そんな人はこの世に存在しないのだから。

その理想に近づくための方法は、あることはある。

あらゆる分野をパッパパッパとちょっとずつかじって、「はい次、はい次」と短期間で片付けていくのだ。つまり「広く、すごく浅く」だ。
ある分野に興味がわいたから極めてみよう、いや、そこまでいかなくても、ちょっと凝ってみようなどと思っていては、「あらゆる道の常識を極めた幅広い知識の持ち主」にはなれない。
「その道の常識」のすべてをおさえるためには、それぞれについて「中途半端」にすら達していない入門編のところだけをチェックして、次々と別の分野へ移っていかなければならない。
これって、皮肉にも、クイズ用の知識で十分と思っているクイズ屋よりも、「その道ではメジャー」であることを重要視するクイズ屋にとって気に入らないことなのではないか。

何かに深く打ち込んでいては、別の分野におけるメジャーな内容を知ることはできない。「広く深く」は理想だが、人生は短い。

さて、「ちょっとずつかじって」とか書いたけど、「その分野では有名・基本」を身につけるのは容易ではないことが多い。
これさえ読めば基本は丸分かりというようなダイジェスト冊子やネットのページがすべての分野にあるわけではない。
ほんの短い間、首をつっこんだだけでは、何がその世界における常識・共通認識なのかについて知るのは難しい場合が多い。
長期間その世界にどっぷり浸かってみてはじめて、「○○○では×××がメジャーだ」と 分かるというような分野もあるのだ。

というわけで、クイズ屋といえども、その筋では誰でも知っていることを知らないからといって恥ずかしがる必要はない。

一般人が知っていることを知らなくたっていいではないか。
「こんなの、普通に生活してたら答えられる」って言われても、普通の生活をしていたらクイズに強くはなれない。

ところで、クイズ界では「一般人」を「何でもほんの少しずつ知っている人」と想定しているようだが、実際はそうではない。
一般人の一人ひとりは、「特定の分野には詳しく、興味のないことは何も知らない人」なのである。


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